
もの好きが多い。
雪の降る奥多摩にこんなに人が来ている。
考える事はみんな一緒のようだ。
「むふ」
3連休に雪が降る?
天気予報のアナウンサーの声に僕は反応した。
以前から一度歩いてみようと思っていたコースがある。
秩父・奥多摩の地図を広げて眺めて見た。
3日あれば楽しみながら歩けるな。
「行こ」
東日原からヨコスズ尾根・長沢背稜を通り雲取山。
雲取山から石尾根を通り鷹ノ巣山に登り・・
鷹ノ巣山で稲村岩尾根を下り東日原。
奥多摩山歩きの表銀座と裏銀座を一周するコースである。
雪の降る中を縦走して見たい。
買ったばかりのツエルトを試してみたい。
僕に取ってツエルトは雪山でこそ試したい道具だ。
ツエルトは1枚の布である。
緊急時にテントにしたりタープにしたり・・
防寒用に体に巻きつけたりして使う。
僕が購入したツエルトは少し大きい。
所持するソロ用のテントの3分の1くらいだ。
重さも大きさも3分の1くらいになる。
「すばらしい」
ツエルトをテントとして使う。
そんな話を言うと多くの人は寒いよと言う。
僕は言う。
「テントも寒いよ」
ツエルトやテントは雨風雪を防ぐものだと思う。
身体の温かさは別のものでカバーする。
僕はそう考えている。
重量の快適を求めるか少しの室内の快適を求めるか?
僕はその中間を求める事にした。
ツエルトの中では大きく。
テントと比べると3分の1くらいの大きさ。
1枚の布がテントになったりタープになったりする。
必要な時に必要な形に変化できるツエルトを購入した。
「魔法の布である」
どこでも泊まれる装備を持つ。
心にゆとりが生まれるので安心して歩ける。
「僕はヤドカリくんである」
雪の中で非自立型ツエルトをテントとして使う。
しっかりと細引きにテンションをかけられるようにする。
テンションがかけられなければテントとして使えない。
木や石などをペグの代わりに利用して設営する。
何もない時用にコンビニのビニールを持って来た。
その中に雪を積めて雪の中に埋める。
結構しっかりとペグの役目をする。
今回は木の伐採した近くでツエルトを張れた。
丸太に細引きをひっかけテンションをかけられた。
「ラッキーである」
冬の山の風の強さは驚くほど強い。
「ゴー」と風が唸り声を上げながら襲いに来る。
「飛んじゃう~」
風の音に慣れるまで大変である。
・・・。
雪の降る2月の奥多摩の山。
外気温度はマイナス11.8度を示している。
ツエルト内はマイナス10度だ。
マイナス10度は寒い。
「こーるど」
ツエルト内にそのまま靴を置いておくと凍る。
翌朝には靴がカチンコチンに凍ってしまうのだ。
こんな状態の靴を履いたら凍傷になる。
寝る時は汚れを落とした靴をビニールに入れる。
その靴を寝袋の中に入れて抱いて寝る。
自然の中では体温を利用する。
「抱かれた靴は暖かい」
寝る時の寝袋の中。
手袋や帽子や靴下などで一杯になる。
子供の時におもちゃを布団の中に隠して入れた。
親に見つかり取り上げられた事がある。
その時のことを思い出す。
あの時に言えば良かった。
「凍らないように暖めている」と・・
・・・。
奥多摩の山歩きのルートは整備されている。
人の手が入り多くの人が踏んだルートは分かりやすい。
雪が降ると自然に近い状態に戻る。
踏み跡が消えてしまう。
「迷う」
慎重に自然を読み取り感を働かせる。
頭の中に浮かんで来る地図と見える山の位置。
ルートの名称などから想像できるルートの状態。
石尾根と書かれていれば石の尾根の上を歩くと分かる。
いくら歩いても尾根に出ないなら間違いと分かる。
歩いた先で見つける人工物。
ルート上を歩いている事を確認させてくれる。
自然を求めて歩いているのだが・・
「ほっとする」
今回の一番の難所は長沢背稜に入る前に訪れた。
水松山(あららぎ)あたりで迷った。
人の通った形跡が読み取れない。
のっぺりとした林の中。
雪で消された踏み跡。
「分からない」
ルート開拓者がどんなルートを描いたか?
頂上を目指さずわき道にルートを求めたのか?
僕ならのっぺりとした林の中から出る事を求める。
「頂上だろ」
頂上に行くとテープが木に巻いてあった。
どうやら正解のようである。
そこで右と左に分かれていたが標識がない。
両方のルートにテープがついている。
頭の中に浮かんで来る地図は右だ。
右が長沢背稜だ。
しばらく歩いていると標識があった。
長沢背稜と書かれている。
「当たりだ」
その標識の横で反対側から来た人達が休んでいる。
真冬の雪降る山の中で汗だらけである。
どうやらラッセルしてきたようだ。
僕に気がつくと声をかけて来た。
「ラッセルしといたから・・」
・・・。
僕は彼らの顔を見た。
大変だった事が顔から読み取れる。
お礼を言っておこう。
「助かります」
この先は迷うことなく行けそうである。
長沢背稜は裏銀座と言われるように道幅が狭い。
地味だが渋いコースである。
雪の量も多い。
歩いてみると汗だらけの彼らの姿が頭に浮かぶ。
僕はかなりラッキーだったようである。
この道を知っている人達なのだろう。
雪の上についたライン取りを歩くと分かる。
よく踏み固められた地面の感覚が伝わる。
「山屋さんのようだ」
初めての人ではこんなに的確なルート取りはできない。
どこを歩くのか読み取れない場所が多い。
雪が全てを隠してしまう。
山歩きは達成感がある。
雪山は登る達成感以外にルートを読み取る。
そんな達成感が味わえる。
僕も少しだけ味わえた。
2泊のツエルトでの宿泊体験と雪山歩き。
「楽しかった」
冬の秩父・奥多摩はいろんなルートが楽しめる。
もっと幅を広げると山梨や丹沢とも繋がる。
ルート取りによってオリジナルもできる。
地図を見て考えると楽しい。
妄想してしまう。
むふ。